だいすき なんて言ってあげない

「まあ、そういうとこが好きなんだけど」

軽い冗談みたいに笑いながら、なんてことないみたいに紙パック入りのジュースを飲みながら、
あなたはまたさらりと私を困らせる。
嬉しいです。私も、あなたが好きです、もちろん大好きです、あなたより好き、なんてバカみたいなことを言いたいです。
けど、どうして好きになってくれたの?と逆に問いただしたい気持ちでいっぱいなんです。
だって、好きの先にあるのは、嫌いしかないじゃないですか。

「それはまた考えが飛躍してると思うけど……。仮にそうだとして、じゃあお前は俺に、嫌われたいの?」
違います!そうじゃないんです。もちろん、好きでいて欲しいです。そのままでいて下さい。
ただ、ただ妙に怖いんです。説明はうまくできないけど。
できないけど、なんだろう。

あなたが好きです。私を、好きになって欲しいです。嫌わないで欲しいです。ずっと、一緒にいたいです。
けど、喧嘩しないなんてことあり得ないんです、きっと。だから、そう。
じゃあ、って。あなたが私のことを好きになるのが怖いんです。だって、いつかは嫌われちゃうから。

「だから……」
そうやって、ため息をつかれるとすごい怖くなります。知ってましたか?
「知らん。どうでもいい。」
ですよね、ごめんなさい。
「謝らないで、余計にイライラする」
そう言われると、私、何も言えなくなりますよ?だって、この次に言っちゃう言葉はごめんなさいなんですから。

無意識的に、下を向いた。人は、気分が盛り下がったら自然と下を向いてしまうのでしょうか。
駄目だ、前を向けない。世界が歪んでる。これじゃあ、アイメイクが落ちちゃうな。
化粧道具とかないし。あっても精々ビューラー止まりですよ。
どうします?
あ、今完璧アイラインが落ちました。あーあ。どうしようかな、これから。
どうしようかな。



「泣いてんの?こっち向いてよ」
「嫌ですよ、絶対。化粧落ちて酷い顔ですもん」
「こっち、向け」
たまにそうやって命令口調の俺様系になっちゃうのがまた笑えるっていうか。なんなんですか?何様ですか?
でも、いいですよ。好きですからね、向いてあげますよ。
「泣いてんじゃん」
ええ、泣いてます。誰のせいだと!
「嫌だった?ごめんごめん。コワカッタネー」
そうやってバカにした態度で私の涙を指で拭き取っていくあなたが、ムカつくんですけど。
あのですね、そうされたらパウダーが落ちるんですよ。これ以上化粧をはげさせないで下さい?
はいはい、知ってますよあなたが泣いてる女の子が好きだってのは。庇護欲がうずくんですよね、存じあげております。
なんだか、手のひらの上で踊っているようで、悔しいじゃないですか。もう。

「なにそれ、違うけど。まあ、可愛いからどうでもいいけど」
どうでもいいって……まあ、ですよね、私なんてどうでもいいですよね。
どうせ変なあなたのことなんて何も分かってないですよ。はいはいすみませんでした。
「そういう意味じゃないって、ねえごめんって。あーもう可愛いなあ」
なんか、バカにされてる気がするんですけど。気のせいですか?」
「気のせいじゃないから気にしなくていいよー。ああもう、すきだよ。」
そうやってまたあなたはさらりと、すきだって言うから、きらいなんです。