冗談のちゅーと本気のちゅー

お前にとってちゅーっていうのは、たったそれほどの価値しかないんだろうな。
騒がしいはずの呑み会が、一瞬で五月蝿いくらい静かに感じた。
皆手にグラスを持ち、口々に笑い合ってる。きっと、静かなのは俺の中だけ。
俺の中だけが、五月蝿いくらいの静寂だ。


誰にでもキスくらいできる。
お前はそう言っておきながら、俺にだけはキスをしなかった。
どうしてだよ。俺の方を見ろよ。
その、アルコールで弛緩しきっただらしない顔をこっちに向けてさぁ。
ちゅーしていい?って、女の子に言われたら嬉しい台詞を男のお前が吐いてみろよ。
何で俺には言わないんだよ、何で俺の方を向かないんだよ。
なぁ、俺にもちゅーしてみろよ。



気づいてるよ、お前が恨めしそうに俺を見てるって。
気づいてるよ、お前もちゅーして欲しいんだって。
女じゃないけどさぁ、こんなビッチにちゅーして欲しいのかよ、笑える。
何が一番笑えるって、さっきまで馬鹿みたいにコールしてたお前がさ。
気がついたら一言も喋らずに、ずーっと俺を眼で追っていることが一番笑える。
ちゅーされたいんだろ?知ってるよ、知ってる。
知ってるけどさぁ。
お前はいつまでそうして、ただねだるだけでいるつもりなんだよ。


本気で俺にちゅーされたいの?
イカレタ呑み会の場所だから、じゃなくってさ。
俺のちゅーが、本気で欲しいの?
本気で欲しいならさ、それなりに本気になれよ。
今の俺がしてるちゅーは、呑み会のテンションに任せた冗談のちゅーだよ。
お前はそれだけで満足できるの?
できないっていうならさ。もっとその先を期待するならさ。
お前が、本気で、俺を誘ってみな。
そうしたら、ちゅーくらい幾らでもしてやるよ。
明日、頭痛と吐き気を抱えるお前に対して、飽きるほど、な。